健康経営の市場規模とは
健康経営の市場規模は、関連サービスの裾野が広いため、調査範囲ごとに数値が大きく変動します。最初に「市場として何を測るのか」という前提を揃えなければ、数値の比較も成長率の解釈も意味を失ってしまいます。
健康経営の定義と市場の捉え方
経済産業省は健康経営を「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義しています。従業員の健康保持・増進を福利厚生ではなく、生産性向上や人的資本の強化につながる投資として位置づける考え方です。
市場として捉える際は、企業が健康関連サービスや製品の調達に投じる支出と、それを供給する事業者の売上を指すのが一般的です。健診代行、産業保健支援、メンタルヘルスケア、健康データ管理プラットフォーム、フィットネス補助、食生活サポートまで含まれ、対象は広範に及びます。
特徴は、最終消費者ではなく企業(BtoB)と従業員(BtoE)の双方を対象とする点です。購入の意思決定者は人事部・健康保険組合・経営層で、利用者は従業員という二層構造のため、提案時の論点設計や価値訴求がBtoCとは大きく異なります。
市場規模を測る指標と調査方法
健康経営の市場規模は、調査機関ごとに集計方法が異なるため数値の扱いに注意が必要です。代表的な指標は次の二つです。
- サービス事業者の売上ベース:健康経営支援サービスを提供する事業者の年間売上を積み上げる方法
- 企業側の支出ベース:企業が健康関連施策に投じた費用総額から推計する方法
主要な調査機関には、矢野経済研究所、デロイト トーマツ ミック経済研究所、富士経済、シード・プランニングなどがあります。矢野経済研究所は「健康経営関連サービス」のマルチクライアント調査を実施し、各セグメントの市場規模と動向を整理しています(出典:矢野経済研究所)。
集計対象も機関により揺れがあります。健診代行を含めるか、ウェアラブル端末を含めるか、健康保険組合からの支出を含めるかで数値が大きく変わります。自社の事業ドメインに一致する範囲を見極めたうえで、複数の数値を併読する姿勢が欠かせません。
ヘルスケア市場・人的資本市場との関係性
経済産業省の整理によれば、ヘルスケア産業全体の市場規模は2016年の約25兆円から2025年には約33兆円規模に拡大する見込みとされています(出典:経済産業省 ヘルスケア産業課)。このうち「健康保持・増進」に注力する分野は約9.2兆円から約12.5兆円へと成長すると推計され、健康経営市場はこの内側に位置づけられます。
一方、健康経営は人的資本経営の構成要素でもあります。エンゲージメント施策、HRテクノロジー、ウェルビーイング経営といった隣接領域とも重なり、市場の境界線は固定的ではありません。実務では「狭義の健康経営支援サービス」「広義のヘルスケア産業」「人的資本関連市場」の三層を区別したうえで、自社が取り組む領域を明示する整理が有効です。
健康経営市場の最新の市場規模と推移
直近の数値を読み解く第一歩は、狭義のサービス市場と広義のヘルスケア産業の数値を混同しないことです。
直近の市場規模データの全体像
法人向けヘルスケアソリューション市場の動向を見ると、デロイト トーマツ ミック経済研究所の調査では、2023年度が前年度比26.3%増の258.1億円、2024年度は同26.0%増の325.3億円となる見込みと公表されています(出典:デロイト トーマツ ミック経済研究所「法人向けヘルスケアソリューション市場の実態と展望【2024年度版】」)。
矢野経済研究所のリリースでも、健康経営関連市場が2021年時点で608億円規模に達したとされており、いずれの調査も狭義の関連サービス市場が数百億円規模で形成されつつ、年率20%超の成長フェーズにある点で共通しています(出典:矢野経済研究所)。
ただし広義のヘルスケア産業まで視野を広げると、市場規模は数十兆円のオーダーに跳ね上がります。議論の前提として「どの粒度の市場を語っているか」を毎回明示する姿勢が欠かせません。
過去5年間の成長率と推移
過去5年の重要な変化点は、コロナ禍を境にした健康経営への注目度の高まりです。2020年以降、テレワーク移行に伴うメンタル不調や運動不足への対応として、オンライン健康相談やストレスチェック関連サービスへの企業需要が大きく動きました。
健康経営優良法人認定制度の認定数も並行して拡大しています。経済産業省の発表によれば、認定数の推移は次の通りです(出典:経済産業省「健康経営優良法人2025」「健康経営優良法人2026」)。
| 認定年度 | 大規模法人部門 | 中小規模法人部門 |
|---|---|---|
| 2024 | 2,988法人 | 16,733法人 |
| 2025 | 拡大 | 19,796法人 |
| 2026 | 拡大 | 23,085法人 |
中小規模法人部門は3年で約1.4倍に伸び、関連サービスへの需要を底支えしています。法人向けヘルスケアソリューション市場のCAGR(年平均成長率)は2024〜2028年度で25.6%との予測も示されており、コロナ禍以降の成長スピードは衰えていません(出典:デロイト トーマツ ミック経済研究所)。認定数の伸びと市場規模の伸びが連動している点は、新規参入を検討する事業者にとって重要なシグナルです。
セグメント別の市場内訳
健康経営市場は単一の塊ではなく、複数のサービス領域の積み重ねで構成されています。実務上は次の三つを軸に整理すると把握しやすくなります。
| セグメント | 主なサービス | 市場の特徴 |
|---|---|---|
| 健診・産業保健 | 健診代行、特定保健指導、産業医契約 | 規模が大きく成熟、価格競争 |
| メンタルヘルス | EAP、オンラインカウンセリング、ストレスチェック | 高成長、新規参入が活発 |
| ITプラットフォーム | 健康データ管理、ウェアラブル連携、AI分析 | 高成長、付加価値の差別化 |
健診・産業保健は法定領域を含むため、市場全体に占める構成比が大きい伝統的セグメントです。一方、メンタルヘルス領域は長時間労働・ハラスメント・キャリア不安といった現代型課題への対応として拡大しています。プレゼンティーイズム(出社しているが業務効率が低下している状態)対策のニーズが顕在化し、オンラインカウンセリングや行動変容アプリへの需要が伸びています。
ITプラットフォーム領域は単価向上の余地が大きく、新規参入企業が事業性を確保しやすい層です。健康診断結果の電子化、ウェアラブルからの生体データ取得、AIによる健康スコア生成が差別化軸になります。
健康経営市場が拡大している3つの背景
健康経営市場の拡大は単発のブームではなく、構造的なドライバーに支えられています。投資判断や事業計画策定では、表層の数値だけでなく、背景にある三つの構造を理解しておく必要があります。
① 人的資本経営と情報開示の浸透
2022年に内閣官房から「人的資本可視化指針」が公表され、2023年3月期決算以降、有価証券報告書での人的資本情報の開示が義務化されました。対象は金融商品取引法に基づき有価証券報告書を提出する大手企業約4,000社で、7分野19項目に沿った開示が求められます(出典:内閣官房「人的資本可視化指針」、金融庁)。
開示項目には人材育成、ダイバーシティ、健康・安全といった健康経営に関連するテーマが含まれており、上場企業にとって健康関連指標の整備は経営課題の一つになりました。投資家やESG評価機関が情報を比較検討するため、開示内容と実態の整合性が問われ、施策投資の根拠としてサービス導入を進める動きが加速しています。
結果として、健康経営は人事領域の取り組みから「投資家コミュニケーションを支える経営インフラ」へと位置づけが変わりつつあります。
② 労働人口減少と人材獲得競争
国立社会保障・人口問題研究所の推計でも、生産年齢人口(15〜64歳)の減少傾向は今後も続くと示されています。労働力の縮小は採用難とリテンション課題を同時に深刻化させ、健康経営はその両面に効く打ち手として注目されています。
具体的には、休職・離職の予防、復職支援、介護や育児との両立支援といった施策が、定着率と生産性を底上げします。採用面では、健康経営優良法人やホワイト500認定の取得を採用ブランディングに活用する企業が増加しています。説明会や求人広告で認定を訴求することで、応募者が企業の従業員ケア姿勢を判断する材料になります。
人材獲得競争が激化するほど、認定取得や健康データの可視化に資金を投じる動機が強まる構造が生まれており、これは関連サービス市場にとって持続的な需要源です。
③ 政府施策と健康経営優良法人認定の拡大
経済産業省の健康経営優良法人認定制度は、企業の健康経営の取り組みを可視化する仕組みとして拡大を続けています。中小規模法人部門の認定数は2024年の16,733法人から2026年の23,085法人へと増加しました(出典:経済産業省)。
中小企業向けには、上位500法人の「ブライト500」、501〜1500位の「ネクストブライト1000」といった上位層認定が用意され、認定取得に向けた支援サービスや研修ニーズを生み出しています。健康保険組合や協会けんぽとの連携、保険者インセンティブの拡充も追い風となり、中小企業セグメントの市場拡大は今後の主戦場になります。
健康経営関連サービスの市場構造
サービス供給側の構造を理解せずに市場参入を判断するのは危険です。健康経営市場は隣接領域同士の重なりが多く、競合と協業の境界が曖昧な点が特徴です。
ヘルスケアプラットフォーム領域
ヘルスケアプラットフォーム領域は、健康データを統合管理し、健康経営施策のPDCAを回すための基盤を提供する層です。健康診断結果、ストレスチェック、勤怠、運動・食事記録、ウェアラブル機器のデータを集約し、ダッシュボードや分析機能で可視化します。
この領域はデータを集める入り口を押さえた事業者が、後段のサービス販売や保険商品連携で収益を伸ばしやすい構造を持ちます。法人向けヘルスケアソリューション市場は2024年度325.3億円、2028年度に806.5億円規模への拡大が見込まれ、年平均成長率はおよそ25.6%と予測されています(出典:デロイト トーマツ ミック経済研究所)。
主要プレイヤーには、国内HRテック大手のサービス、保険会社が提供する付帯型プラットフォーム、ヘルスケアスタートアップが手掛ける専門型プロダクトがあります。差別化軸は「ウェアラブル連携の幅」「データ分析の深度」「人事システムとの統合性」の三点です。導入企業は、自社の人事DXロードマップとの整合性を重視する傾向が強まっています。
健診・産業保健サービス領域
健診・産業保健は、法令で義務づけられた領域を中心に組成された伝統的セグメントです。労働安全衛生法に基づく定期健康診断、特定健康診査、特定保健指導、ストレスチェック、産業医・保健師の選任サポートなどが含まれます。
法定領域であるため、すでに各企業が一定の予算を投じており、市場規模は安定しています。一方で健診代行や保健指導は標準化が進んでおり、価格競争に陥りやすい構造です。差別化のポイントは、データの電子化・分析、産業保健職のリモート支援、結果に基づく保健指導の質向上にシフトしています。
ストレスチェック制度の対象範囲を巡る議論や、データヘルス計画と連動した保険者連携の進展も、新たな成長余地です。中小企業セグメントへの普及拡大に伴い、法令対応の確実性に加えてデータ活用の柔軟性が事業者選定の評価軸として重みを増しています。
メンタルヘルス・EAP領域
EAP(Employee Assistance Program、従業員支援プログラム)は、心理カウンセリングや法律・財務相談を従業員に提供するサービスの総称です。コロナ禍以降、テレワーク下のメンタル不調や孤立感への対処として導入企業層が広がりました。
近年の特徴は、対面型カウンセリングからオンラインカウンセリングへの主流化、AIチャットによる初期相談、専門家マッチングのデジタル化です。サブスクリプション型の料金体系を採用するサービスが増え、中小企業でも導入しやすくなっています。
プレゼンティーイズムによる経済損失は、企業にとって離職率以上に大きい場合があると指摘されており、メンタルヘルスへの投資はROI観点でも正当化しやすくなっています。導入の意思決定者は人事だけでなく経営企画やCFO配下に広がり、データに基づくROI試算と効果検証の実装が事業者選定の鍵を握ります。
健康経営市場の将来予測と成長シナリオ
将来予測は調査機関ごとにレンジが大きく、単一数値で語るより、シナリオ別の幅で議論したほうが意思決定の精度が上がります。
2030年に向けた市場規模予測
法人向けヘルスケアソリューション市場については、デロイト トーマツ ミック経済研究所が2024〜2028年度のCAGRを25.6%と予測し、2028年度には806.5億円規模に達するとの見通しを示しています(出典:デロイト トーマツ ミック経済研究所)。この成長率を機械的に2030年まで延伸すると1,000億円超のレンジが視界に入りますが、市場成熟に伴う鈍化を加味すると現実的な着地点は下限寄りに収まる可能性があります。
シナリオ別の整理は次のように設計できます。
- ベースケース:認定企業の漸増と既存企業の単価向上が継続し、現行のCAGR並み成長
- 楽観ケース:PHR連携と生成AI活用が加速し、平均単価が上振れ
- 悲観ケース:景気後退で人事関連予算が圧縮され、成長率が半減
国際比較では、米国や英国で先行するEAP・ウェルネスプラットフォーム市場が参考指標になります。海外の普及率や1人当たり単価の水準は、日本市場の伸びしろを考えるうえで一つの上限値です。
中長期の成長ドライバー
中長期で市場を押し上げる要素は三つあります。一つ目は生成AI活用による効率化です。健康相談チャットボット、保健師業務の自動化、健診結果の自動解釈など、人的リソース制約を緩和する用途が次々と実装フェーズに入っています。
二つ目はPHR(Personal Health Record)連携の進展です。マイナポータルやウェアラブル経由で個人が保有する健康データを、本人同意のもとで企業の健康経営プログラムに接続する流れが広がれば、施策の精度は大きく向上します。
三つ目は健康投資効果の定量化です。プレゼンティーイズム改善によるROI試算が標準化されれば、健康経営への支出は「コスト」から「投資」へ意味づけが定着し、予算ロックの強度が増します。
リスクとなり得る外部要因
市場拡大の前提を揺らすリスクも見落とせません。景気後退局面では、人事関連予算が真っ先に削減対象となりやすく、健康経営支出も例外ではありません。
個人情報保護規制の強化も影響します。健康データは要配慮個人情報に該当するため、国内外の規制動向次第で、データ取得・分析サービスのコストが上昇する可能性があります。海外子会社や外国人従業員を対象に含める場合、域外適用リスクの精査が欠かせません。
加えて、認定制度そのものの制度疲労も中長期の論点です。認定取得が一般化すれば差別化価値が薄れ、関連支援サービスの単価が圧迫される可能性があります。制度依存型のビジネスは、認定要件の改定や運用方針の変更に対する感応度が高い点に留意が必要です。
業界別に見る健康経営市場の活用シーン
健康経営の取り組みは業界特性で大きく異なります。市場参入や提案設計を行う際は、業界ごとの課題と予算配分の傾向を理解しておく必要があります。
製造業における導入動向
製造業では、安全衛生管理と健康経営の統合運用が進んでいます。労働安全衛生法に基づく安全衛生委員会の運営や、化学物質取扱者の健康管理を健康経営施策と一体で設計するケースが増えています。
工場ライン従業員に特有の健康課題は、夜勤シフトによる生活リズムの乱れ、立ち作業や反復動作による筋骨格系疾患、熱中症・寒冷リスクなどが挙げられます。健康データの可視化とウェアラブル活用は、現場固有のリスクの早期検知に有効です。
製造業特有の論点は労災コストです。休業補償や生産ライン停止コストの削減という直接的な経済効果が示しやすく、投資回収シナリオを描きやすいため、健康経営支出の正当化がしやすいセグメントです。
金融・サービス業の取り組み傾向
金融業やサービス業では、メンタルヘルス領域への投資が中心になります。長時間のデスクワーク、対人ストレス、目標管理プレッシャーが課題になりやすく、EAPやオンラインカウンセリングの導入率が高い傾向にあります。
ESG評価との接続も重要な論点です。投資家との対話で人的資本指標が問われる頻度が高い金融セクターでは、健康関連KPIの開示と運用がブランド価値に直結します。有価証券報告書での人的資本開示を通じて投資家評価とリンクする構造が、健康経営支出の予算化を後押ししています。
本社機能と支店・営業店の運用差にも注意が必要です。本社で導入したサービスを全国の支店に展開する際、店舗ごとの管理職の温度差や勤務形態の違いが利用率に影響します。展開設計を含めた提案が事業者には求められます。
中小企業セグメントの広がり
中小企業セグメントは、健康経営優良法人認定制度の中小規模法人部門を起点に拡大しています。2026年認定では23,085法人が認定され、ブライト500やネクストブライト1000といった上位認定が中小企業の取り組みを後押ししています(出典:経済産業省「健康経営優良法人2026」)。
協会けんぽとの連携も活用しやすい打ち手です。健診受診率向上、保健指導、健康セミナーの提供など、保険者の支援メニューを組み合わせると、自社負担を抑えながら認定要件を満たすことが可能です。
ただしコスト面のハードルは依然残ります。認定取得のための社内体制整備、データ管理ツール導入、外部コンサル費用は中小企業にとって決して軽くなく、補助金活用や段階的導入の設計が現実的な解となります。
健康経営市場のデータを実務で活用する際の留意点
市場データを社内提案や事業判断に組み込む際には、調査機関ごとの数値差を整理し、自社の事業ドメインに沿って再定義する作業が欠かせません。
調査機関ごとの数値の違いを揃える
調査機関ごとに数値が異なる主な要因は、対象範囲の定義差です。健診代行を含むか、ウェアラブル端末や法人向けフィットネスを含むか、健康保険組合の保健事業支出を含むかで、市場規模は数倍変わることがあります。
実務での対処は次の三点です。
- 出典明記を徹底し、調査名・公表年・対象範囲を必ず併記する
- 単一数値での提示は避け、レンジで示す
- 同じ機関の時系列を追うことで成長率の連続性を担保する
複数の調査結果を併用する場合は、「定義」「対象セグメント」「集計年度」の三点で揃えた比較表を用意したうえで議論を進めると、ステークホルダー間の認識ズレを防げます。
自社の参入領域に合わせて市場を再定義する
市場規模の数値そのままで投資判断を下すのは危険です。事業判断の局面ではTAM(理論上の最大市場)、SAM(自社が獲得し得る市場)、SOM(短期で実現可能な市場)の三層で再定義する作業が必須です。
たとえばITプラットフォーム領域に参入する場合、TAMは法人向けヘルスケアソリューション市場全体、SAMは中堅・大企業のうちウェアラブル導入意向のある層、SOMは初年度に直接アプローチできる商談リスト相当、といった切り出しが現実的です。
周辺市場の取り込み判断も重要です。健康経営に隣接する人的資本管理、福利厚生、HRテックなどを「自社の射程に入れるか否か」で、SAMの規模が大きく変わります。競合との重なりを整理しないままTAMを最大化すると、過大な期待値で投資が走り、実績が乖離するリスクが高まります。
経営会議で使える資料への落とし込み方
経営会議で市場データを示す際は、時系列とCAGRをセットで語る形が基本です。市場規模の絶対値だけでは判断材料として弱く、過去の成長率と将来予測を並置することで、意思決定者がトレンドを把握できます。
各データには示唆を一文で添えるのが効果的です。「市場は年率25%成長、自社が同水準で伸びれば3年後に〇億円規模」「ただし上位3社で6割を占有、参入には差別化軸が必須」など、数値とその含意を一行で示すと、経営層の意思決定スピードが上がります。
さらに、「現状維持」「自社開発で参入」「M&Aで参入」など複数の打ち手を比較表で示し、それぞれに想定投資・想定回収・想定リスクを並べると、議論が建設的になります。
まとめ|健康経営の市場規模を経営判断に活かす
本記事の要点
健康経営の市場規模は、捉え方によって桁が変わります。本記事の要点を整理すると次の通りです。
- 狭義の関連サービス市場は数百億円規模、広義のヘルスケア産業まで含めれば数十兆円規模
- 法人向けヘルスケアソリューション市場は2024年度325.3億円・前年比26.0%増で推移し、2028年度には806.5億円への拡大が予測される
- 成長を支える構造的要因は、人的資本可視化指針による開示の制度化、労働人口減少を背景とした人材戦略上の必要性、健康経営優良法人認定の拡大の三つ
- 市場はヘルスケアプラットフォーム、健診・産業保健、メンタルヘルス・EAPの3層で構成され、それぞれ成長率と参入障壁が異なる
- 数値はレンジで把握し、自社の事業ドメインに翻訳する作業の質が問われる
次に取り組むべきアクション
市場の追い風を活かすには、外部データに頼り切るのではなく、自社の事業仮説に翻訳する作業が欠かせません。次のアクションとして、以下の整備をおすすめします。
- 自社事業ドメインに合わせたTAM/SAM/SOMの試算を行い、市場規模の数値を投資判断の前提に変換する
- 主要調査機関の定義差を整理した比較表を作成し、社内議論の基準を統一する
- 競合分析と顧客調査を並行して進め、サービス領域ごとの差別化軸と需要強度を見極める
- 経営会議向けには、時系列・CAGR・示唆・選択肢の四点セットで提示する形式を確立する
調査・分析の進め方に課題がある場合は、市場調査やフレームワーク設計の専門知見を持つパートナーとの連携も有効な選択肢になります。