DAOのビジネスモデルとは、ブロックチェーンとスマートコントラクトを基盤に、中央管理者を置かずに参加者全員が意思決定と運営に関わる組織で収益を生み出す事業設計のことです。プロトコル手数料、トークン発行、トレジャリー運用などを通じて売上を確保し、参加者へガバナンス権や報酬として還元する仕組みが特徴です。プロトコル・ガバナンス型、投資型、コミュニティ・コレクター型、サービス・プロダクト型の4類型に整理でき、それぞれ収益源と参加者インセンティブが異なります。
本記事ではDAOのビジネスモデルの種類・収益構造・代表的な活用事例・導入時のリスクと進め方を、戦略コンサル出身者の視点で意思決定に使える形で解説します。
DAOのビジネスモデルとは
DAOは新しい組織形態として語られることが多いものの、ビジネスモデルとして見ると「収益源」「参加者インセンティブ」「ガバナンス」が一体化している点に特徴があります。既存の株式会社モデルとは前提が異なるため、最初に定義と注目背景を整理しておきましょう。
DAOの定義と基本特徴
DAO(Decentralized Autonomous Organization)とは、分散型自律組織を意味し、特定の経営者や中央管理機関を持たずに参加者の合議で運営される組織形態です。意思決定はガバナンストークンを保有する参加者の投票で行われ、ルールはスマートコントラクトとしてブロックチェーン上にコード化されます。
ブロックチェーン上で完結する組織であるため、原則として法人格を前提とせず、参加・脱退・取引の履歴がオンチェーンに記録されます。事務局や本社といった物理的な拠点を必須としないため、組織コストの構造が従来型企業と大きく異なる点が特徴です。
国・業種・職位を問わず参加できる構造を持ち、貢献に応じてトークン報酬を受け取る設計が一般的です。組織の境界が曖昧で、利用者・出資者・運営者を兼ねる参加者が多くなるという独自の力学が働きます。
従来の企業組織との違い
株式会社では、株主総会・取締役会・執行役員という階層で意思決定が積み上がります。一方DAOでは指揮命令系統を持たず、提案と投票によって運営方針が決まるため、フラットな構造になりやすい特徴があります。
意思決定の透明性も大きな違いです。提案・投票・資金移動の履歴がオンチェーンで誰でも参照できるため、内部監査や情報開示にかかる工数を構造的に圧縮できます。一方で、議論ログや背景情報がオフチェーンに分散しやすく、文脈把握には別途工夫が必要です。
参加形態の境界が曖昧になる点も特徴です。出資者がプロダクトのユーザーであり、同時に開発貢献者として労働対価を受け取るケースも珍しくありません。「資本」「労働」「顧客」が単一のトークン経済圏で重なる構造は、伝統的な企業組織にはない設計上の前提です。
ビジネスモデルとして注目される背景
DAOがビジネスモデル文脈で注目される一因は、Web3経済圏の拡大です。DeFi(分散型金融)やNFTなどオンチェーン経済が成立した結果、組織自体をオンチェーンで運営する合理性が一定の領域で生まれてきました。
コミュニティ主導の事業創出という側面もあります。SNSやオンラインコミュニティが事業の起点になる時代において、「ユーザー=オーナー」を制度化できるDAOは、コミュニティ価値をトークンに転換しやすい仕組みです。
加えて国境を越えた小口資金調達が可能な点も無視できません。トークン発行を通じて世界中の参加者から資金を集めつつ、参加者を顧客・宣伝者・貢献者として取り込めるため、初期立ち上げの推進力を確保しやすくなります。
DAOを支える3つの技術的仕組み
DAOがビジネスモデルとして成立するためには、3つの技術基盤が必須です。これらを理解しておくと、後段の収益構造やリスクの議論が腑に落ちやすくなります。
① ブロックチェーンによる取引・履歴記録
DAOの土台は、改ざんに強いパブリックブロックチェーンです。すべての取引・投票・資金移動がブロックに記録され、参加者の誰もが履歴を検証できる構造になっています。
中央集権的なサーバや管理者を介さずに整合性を担保できるため、第三者機関による監査負担が構造的に小さくなります。会計監査・内部統制にかかる人件費の一部を、技術的な仕組みで代替できる点はビジネスモデル設計上の利点です。
ただし「すべてが透明」であることは、戦略上の機密情報を扱いにくいという裏返しでもあります。重要な意思決定の前提情報をどこまでオンチェーンで開示するか、運用ルールの設計時点で線引きが求められます。
② スマートコントラクトによる自動執行
スマートコントラクトは、条件が満たされたときに自動実行されるコードです。投票結果に応じた資金の払い出し、トークンの分配、サービスの利用料徴収などをコードで記述しておくことで、運営者の介在なしに業務が回ります。
中間者を排除できるため、契約執行コストが低減します。たとえば「投票で承認された予算は、自動的に対象アドレスへ送金する」といったルールを組み込めば、経理処理にかかる工数を削減しつつ恣意的な運用を防止できます。
一方でコードに記述された通りにしか動かないため、想定外の事象や不具合の修正は容易ではありません。コントラクトのアップデート手順や緊急停止機能の設計が、運用品質を左右する重要論点になります。
③ ガバナンストークンによる意思決定
DAOの意思決定は、ガバナンストークンの保有量に応じた投票権で行われます。提案者は施策案をオンチェーンに登録し、一定期間の投票で可決されれば自動的に実行される流れが基本です。
トークン保有はそのまま発言権の重みになるため、設計次第で「資本の論理」が強く働く点には注意が必要です。一人一票の二次投票(クアドラティック・ボーティング)や、貢献度に応じた重み付けなど、形骸化を防ぐ仕組みを併用するDAOも増えています。
ガバナンストークンは、報酬・割引・サービス利用権などのインセンティブ機能と組み合わせて発行されることが多いです。トークンが「議決権」と「経済的価値」を兼ねる二重性は、参加動機を高める一方、投機的な売買を呼び込む要因にもなります。
DAOのビジネスモデル4類型
DAOのビジネスモデルは目的によって性質が大きく変わります。代表的な4類型を整理することで、自社の検討領域がどの型に近いかを判断しやすくなります。
| 類型 | 主な目的 | 主な収益源 | 代表的な領域 |
|---|---|---|---|
| ① プロトコル・ガバナンス型 | プロトコル運営の分散化 | プロトコル手数料 | DeFi・基盤プロトコル |
| ② 投資型 | 共同での資産運用 | 投資リターン・運用報酬 | スタートアップ・NFT投資 |
| ③ コミュニティ・コレクター型 | 文化・関心の共有 | NFT販売・会員費 | 文化・アート・推し活 |
| ④ サービス・プロダクト型 | プロダクト共同運営 | プロダクト売上 | 地域DAO・SaaS的事業 |
① プロトコル・ガバナンス型
DeFiプロトコルの運営に多く見られる型です。プロトコル上で発生する取引手数料の一部をDAOのトレジャリーに蓄積し、ガバナンストークン保有者の投票によって、手数料率の変更・新機能リリース・トレジャリー運用方針などを決定します。
代表例としてMakerDAO(ステーブルコインDAIの発行プロトコル)やUniswap(分散型取引所)が公開情報上よく挙げられます。プロトコルが生成するキャッシュフローと、それを再分配・再投資するDAO構造が一体化している点が特徴です。
事業立ち上げの観点では、すでに需要のあるプロトコル上に「運営権」を分散させるイメージで設計しやすい型です。手数料の発生源(取引・利用)が明確であるほど、収益構造を説明しやすくなります。
② 投資型(インベストメントDAO)
参加者から資金をプールし、投資先選定をトークン投票で行う共同ファンド型のDAOです。決定された投資のリターンは、トークン保有比率に応じて分配されます。
スタートアップ投資、NFT、不動産などの実物資産、知的財産(IP)への投資など、対象は幅広く設計できます。投資判断の集合知化、小口分散投資、海外参加者の取り込みなどが利点です。
一方で、金融商品取引法・税制との接点が大きく、国・地域ごとの規制対応が前提となります。組合契約やSPVと組み合わせるなど、オフチェーン側の法的構造をどう設計するかが事業成否を分けます。
③ コミュニティ・コレクター型
共通の関心や、特定資産の取得を目的に集まる型のDAOです。希少NFTやアート作品の共同保有、スポーツやエンタメの共同支援、文化財の保全資金確保といった用途で活用されます。
収益はNFT販売、二次流通ロイヤリティ、イベント運営、グッズ販売などが中心です。「文化的価値の共同保有」が活動の目的に組み込まれているため、純粋な経済的リターンだけでない動機が参加者を支えます。
立ち上げの観点では、コアコミュニティの濃さが鍵となります。資金調達よりもコミュニティ運営の継続性が重要で、トークンエコノミクスよりも体験設計が優先される傾向です。
④ サービス・プロダクト型
プロダクトやサービスの開発・運営自体をDAOで行う型です。エンジニアリング、デザイン、運営オペレーションなどへの貢献に対し、トークンで報酬を支払いながら事業を進めます。
地域課題の解決を掲げる地域DAO、特定領域に特化したサービスDAOなどが該当します。「貢献に応じたトークン報酬」を中核に据えるため、報酬配分ロジックの設計品質がそのまま事業品質を左右します。
既存事業の一部機能(コミュニティ運営、UGC生成、地域連携)からDAO化していくアプローチも現実的です。すべてを一気に分散化するのではなく、段階的に意思決定範囲を広げていく設計が向いています。
DAOが収益を生み出す構造
DAOの売上とキャッシュフローの源泉は、トークン発行・プロトコル収益・トレジャリー運用の3階層に整理できます。それぞれの役割と注意点を押さえると、収益モデルの設計が具体化します。
トークン発行による資金調達
DAO立ち上げの初期フェーズでは、ガバナンストークンの発行を通じた資金調達が中心になります。プライベートセール・パブリックセール・エアドロップなど方式は複数あり、参加者構成と販売条件によって初期コミュニティの質が決まります。
ベスティング設計(一定期間にわたる段階的な権利確定)は、短期売却による価格急落を防ぐうえで欠かせません。創業チーム・初期投資家・コントリビューターのトークンに対し、ロックアップとリリーススケジュールを設定するのが一般的です。
希薄化リスクの管理も重要です。追加発行や流動性供給の方針を不透明にすると、既存参加者の信頼を失いやすくなります。発行総量・発行スケジュール・追加発行条件を、立ち上げ時点で明文化しておくことが望ましい設計です。
プロトコル手数料・サービス収益
プロトコルやプロダクトの利用に伴う手数料は、DAOの中核的なキャッシュフロー源です。取引高に応じた手数料、月額課金、API利用料、ライセンス料など、ビジネスモデルに合わせて多様な徴収方式を設計できます。
DeFiプロトコルでは取引手数料、NFTマーケットでは販売手数料・二次流通ロイヤリティ、サービス系DAOではサブスクリプション収益などが想定されます。手数料率はガバナンス投票で調整されるため、収益最大化と利用促進のバランスが継続的な論点になります。
加えて、外部企業との連携収入も成長後の収益柱になります。プロトコル統合・APIライセンス・共同マーケティングなど、トレジャリーを介した提携収入をどう設計するかは、DAOの自立性に直結する論点です。
トレジャリー運用と参加者への分配
蓄積されたトレジャリーは、再投資・分配・買い戻しという3つの方向で活用されます。再投資は研究開発・プロダクト改善・グラント(助成)プログラムなどに振り向け、長期的な競争力の源泉を作ります。
参加者への還元施策として代表的なのが、バイバック・バーン(トークンの買い戻しと焼却)です。市場流通量を減らすことで価格を下支えし、保有インセンティブを高める効果があります。配当的な分配や、ステーキング報酬として継続的に渡す方式を採るDAOもあります。
トレジャリーの規模が大きくなると、運用方針自体がガバナンス論点になります。安定運用のためのステーブルコイン比率、リスク資産比率、外部運用先の選定など、従来の財務戦略と同等の意思決定が分散環境で必要になる点は押さえておきたい論点です。
DAOの代表的な活用領域と事例
公開情報をもとに、DAOが実際に動いている代表的な領域を整理します。具体的なイメージを持つことで、自社事業との接続ポイントを発見しやすくなります。
金融・DeFi領域での活用
最も活発なのが金融・DeFi領域です。MakerDAOは、暗号資産を担保にステーブルコイン(米ドル連動の通貨)を発行するプロトコルとして知られ、ガバナンストークンMKRの保有者が金利・担保資産・リスクパラメータを投票で決定する運営構造を取ります。
分散型取引所であるUniswapも、ガバナンストークンUNIによりプロトコル運営の意思決定を行っています。取引手数料という明確なキャッシュフローをベースに、トレジャリーの運用や新機能リリースを参加者投票で決める構造です。
このほか、貸借プロトコル、デリバティブ、保険プロトコルなど、DeFiの周辺領域でDAO型運営が広がっています。共通するのは、プロトコル自体が自動的にキャッシュフローを生み、それを分配・再投資する設計です。新規事業として参考にする際は、「自社事業のどこにオンチェーンで完結する取引が成立するか」を起点に発想すると整理しやすくなります。
参照:MakerDAO 公式ドキュメント、Uniswap Foundation 公開情報
投資・ファンド領域での活用
スタートアップ投資、NFT投資、実物資産投資など、ファンド機能をDAOで担う事例も増えています。共通する仕組みは、参加者から資金をプールし、投資先候補をコミュニティに諮ったうえでトークン投票で意思決定する流れです。
メリットは、意思決定の集合知化と小口参加者の取り込みです。投資委員会のような少数の専門家による判断ではなく、ドメイン知識を持つコミュニティメンバーが評価に参加することで、ニッチ領域の目利きが効きやすくなります。
ただし、金融規制との接点が極めて大きい領域です。日本国内では金融商品取引法上の取り扱い、暗号資産交換業の登録要否、参加者の本人確認義務など、検討課題が多岐にわたります。法務・税務面の事前検討なしに立ち上げると、後戻りコストが大きくなる点は注意が必要です。
地域・コミュニティ領域での活用
国内では、地方自治体や地域コミュニティと連動した「地域DAO」の事例が公開情報として紹介されています。新潟県の山古志地域で電子住民票NFTを活用した取り組みなどが先行事例として知られ、関係人口の創出・地域課題の共同解決を目的とする実験が広がっています。
「美しい村DAO」のように、特定の価値観や地域文化を軸にしたコミュニティDAOも登場しています。共通点は、地域内の事業者・住民・関係人口・支援者が参加し、売上の一部を地域内に還元する循環を組み込んでいる点です。
地域DAOは、単に資金調達手段としてのDAOではなく、関係人口を継続的に巻き込むためのコミュニティ運営基盤として機能します。導入する場合、トークン経済の設計よりも、地域の合意形成やオフラインの活動接続が成功要因になりやすい傾向があります。
参照:総務省 地域DX関連の公開資料、各自治体の関連プレスリリース
DAO型ビジネスモデルのメリット
DAO型のビジネスモデルを採用することで得られる便益を、事業者の視点で整理します。意思決定の透明化、グローバル参加、コミュニティドリブンの3点が中核になります。
意思決定プロセスの透明化
提案・投票履歴がオンチェーンに残るため、意思決定の正当性を後から検証できる点が最大のメリットです。重要事項の決定根拠が公開情報として残るため、ステークホルダーへの説明コストが構造的に下がります。
ガバナンスの透明性は、参加者の信頼形成に直結します。「いつ、誰が、どの提案にどう投票したか」が確認可能であることは、特に資金調達局面において投資家の意思決定材料として重みを持ちます。
監査負担の軽減という観点でも有効です。資金移動が公開台帳で追跡できるため、内部統制の一部を技術的な仕組みで代替できます。ただし、すべてを置き換えるわけではなく、オフチェーン側の議事録や根拠資料の管理は依然として必要です。
グローバル参加と資金調達の容易さ
国境を越えた参加者を初日から取り込める点は、DAO特有の強みです。ウォレット接続だけで参加可能なため、地理的・言語的な制約はあるものの、伝統的な株主募集と比べて参加コストが大幅に下がります。
小口分散型の資金調達が現実的な選択肢になる点も大きな違いです。1人当たり数百ドル単位の小口出資を世界中から集めることで、ニッチな事業領域でも数億円規模の資金を集めることが可能になります。
組織が24時間稼働する点も特徴です。タイムゾーンの異なるメンバーが非同期で意思決定に参加するため、議論や提案が止まりにくくなります。一方、合意形成のスピード感は意識的に設計しないと低下するため、提案期間・投票期間の設計が重要です。
コミュニティドリブンな成長
DAOの参加者は、出資者でありユーザーであり貢献者でもあります。「オーナー兼ユーザー」として関わるため、口コミやプロダクト改善の自発的な貢献が生まれやすい構造です。
事業立ち上げ初期において、この自走性は大きな推進力になります。マーケティング予算を抑えつつ、コミュニティの熱量で初期顧客を獲得できる事例が増えています。
ただし、コミュニティドリブンの成長には限界もあります。プロダクトが一定の規模に達したあと、専門的なオペレーション機能(カスタマーサポート、規制対応など)は中央集権的な運営に近い体制が求められやすく、「分散性」と「専門性」のバランスをどこで取るかが事業成熟期の論点になります。
導入時に直面しやすい課題とリスク
DAOは利点と同等以上に、固有のリスクを抱えています。意思決定者が事前に押さえるべき論点を、法務・ガバナンス・トークン設計の3観点で整理します。
法的位置づけと税務の不確実性
国内では、2023年の法改正により暗号資産関連の整備が一定進みましたが、DAOそのものに関する明確な法人格制度は限定的です。一般社団法人や合同会社の枠組みに当てはめて運営するケースもありますが、参加者全員を社員として組み込むには技術的に難しい場面が多くあります。
トークン発行は、金融商品取引法・暗号資産交換業・前払式支払手段など、複数の法令との接点が生じます。発行スキーム、流通設計、参加者の地理的分布によって適用される規制が変わるため、事業設計の早い段階で法務専門家との論点整理が必要です。
参加者課税の取り扱いも複雑です。トークンを取得した瞬間や、エアドロップで受領した瞬間に課税される設計の国もあり、「どのタイミングで」「誰に」課税が発生するかは、参加体験の設計に直結します。日本国内では、国税庁の公開する暗号資産関連のFAQが基本的な参照点となります。
参照:金融庁 暗号資産関連法令、国税庁 暗号資産に関する税務上の取扱い
ガバナンスの形骸化リスク
DAOで頻発する課題が、投票参加率の低下です。提案数が増えるほど参加者の関心が分散し、定足数を満たさない投票が増える「提案疲れ」が広く報告されています。
大口保有者への権限集中もよく指摘されます。少数のクジラ(大量保有者)が議決の方向性を決められる状況になれば、分散性は実質的に失われます。クアドラティック・ボーティングや、デリゲート(投票権委任)の仕組みなどで緩和を図るDAOも増えていますが、決定打となる方式は確立していません。
議論の質を担保する設計も難所です。オンチェーン投票の前段階としてフォーラム議論を経由させる、専門家による論点整理を制度化するなど、意思決定品質を維持するためのオフチェーン側の運営工夫が成否を分けます。
トークン設計とインセンティブ崩壊
ガバナンストークンの価格急落は、DAO全体の活力を一気に落とすリスクがあります。価格下落は参加者の経済的損失を生むだけでなく、トレジャリー価値を毀損し、貢献者への報酬支払いも難しくなる悪循環を招きます。
短期投機との分離も難しい論点です。流動性が高いほど資金調達はしやすい一方、本来のステークホルダーではない短期売買者がコミュニティに混在し、ガバナンス品質を下げる要因にもなります。ロックアップ・段階的解放・非流動的なソウルバウンド型の補助トークンなど、設計の工夫が広がっています。
貢献評価ロジックの設計難易度も高く、定量化しづらい貢献(モデレーション、コミュニティ運営、戦略立案)を評価しないと、開発・コーディング以外の貢献者が離脱します。「誰が、何をしたら、いくらの報酬を得るか」を設計し続けるオペレーションは、DAO運営の中核業務になります。
DAOビジネスモデルの進め方
DAOを立ち上げて運用に乗せるには、目的設計・トークノミクス設計・実装と運用体制の3ステップで進めるのが現実的です。各段階の論点を押さえておきましょう。
目的とコミュニティ設計の整理
立ち上げの起点は、「何のために分散化するのか」を言語化することです。意思決定の透明化、グローバル資金調達、コミュニティ巻き込み、規制リスクの分散など、目的ごとに最適な型と設計が変わります。
想定参加者像の定義も初期に行いたい工程です。エンジニア中心なのか、消費者中心なのか、投資家中心なのか、構成によって必要なオンボーディング体験・コミュニケーションチャネル・トークンユーティリティが変わります。
意思決定範囲のスコープ設定も重要論点です。すべてをオンチェーン投票で決めるのか、戦略レベルだけDAOで決め執行はオフチェーンで行うのか。段階的な分散化を前提にスコープを絞ると、立ち上げの実行可能性が高まります。
トークノミクスとガバナンス設計
トークンの用途・発行総量・配分比率は、立ち上げ時点で決めるべき最重要設計事項です。創業チーム、初期投資家、コミュニティ、トレジャリーへの配分比率や、ベスティングスケジュールが、後々のガバナンスバランスを決めます。
投票方式の選択も慎重な検討が必要です。1トークン1票方式、二次投票、デリゲート式など、目的と参加者像に応じた選択が求められます。「参加促進」と「乱発防止」のトレードオフをどう設計するかが鍵になります。
貢献報酬の配分ルールは、運営開始後も継続的に見直す対象になります。固定の役割給、成果連動報酬、評価投票(ピアレビュー)など、複数の方式を組み合わせて運用するDAOが増えています。立ち上げ初期は粗くても良いので明文化し、運用しながら改善していく姿勢が現実的です。
スマートコントラクト実装と運用体制
ゼロから自前実装するのではなく、Aragon・Snapshot・SafeなどのDAOフレームワークやツール群を活用するのが現実的です。既存フレームワークの活用で、開発期間と監査コストを大幅に圧縮できます。
セキュリティ監査は欠かせません。トレジャリー残高が増えるほど攻撃インセンティブも高まるため、複数の監査会社による多重監査、バグ報奨金プログラム、緊急停止機能の実装などが、運用品質を決めます。
オフチェーン運営の設計も忘れてはならない論点です。フォーラム運営、コミュニティモデレーション、提案フォーマットの整備、貢献者のオンボーディングなど、人手による運営の品質がDAO全体の生命線になります。「分散化したから運営工数が減る」わけではない点は、最初に認識しておきたい現実です。
まとめ|DAOのビジネスモデルを事業に取り入れる視点
DAO型ビジネスモデルを自社で検討する際は、機能の置き換えではなく、コミュニティ価値の経済化として捉えると論点が整理しやすくなります。最後に、検討の出発点として持ち帰りたい論点を確認します。
自社事業との接続ポイントを見極める
すべての事業がDAOに向くわけではありません。コミュニティ資産が事業価値に直結する領域、オープンな意思決定が品質向上に寄与する領域、グローバル小口参加者の巻き込みが成長エンジンになる領域などが、相性の良い接続ポイントです。
既存組織との併存方法も論点になります。本体は株式会社のまま、特定機能(コミュニティ運営、共創プロジェクト、地域連携)だけをDAO化するアプローチは、リスクと学習コストを抑えやすい現実解です。「全部分散化」ではなく「部分分散化」から始める設計が、多くの企業にとって実装しやすい入り口になります。
検討フェーズで押さえるべき論点
法務・税務の事前確認は、検討の最初に着手すべき項目です。スキームによって規制適用が変わるため、複数案を持ち寄って弁護士・税理士と論点出しを行うことで、後戻りコストを最小化できます。
段階的な分散化のロードマップも明示しておきたい設計事項です。立ち上げ初期は中央集権的な運営に寄せ、コミュニティ成熟と並行して権限を移していく設計のほうが、ガバナンスの形骸化を防ぎやすくなります。
最後に、成功指標と撤退基準の合意は経営判断として必須です。アクティブ参加者数、トレジャリー成長率、提案・投票の質といった指標を事前に設定し、達成水準と撤退ラインを定めておくことで、健全な意思決定を継続できます。
まとめ
- DAOのビジネスモデルとは、ブロックチェーンとスマートコントラクトを基盤に、トークン発行・プロトコル手数料・トレジャリー運用を通じて収益を生み、参加者にガバナンス権と報酬として還元する事業設計です
- 代表的な型は、プロトコル・ガバナンス型/投資型/コミュニティ・コレクター型/サービス・プロダクト型の4類型に整理できます
- 収益源はトークン発行・プロトコル手数料・トレジャリー運用の3階層で構成され、それぞれに固有の設計論点があります
- 法務・税務の不確実性、ガバナンス形骸化、トークン設計の難易度がリスクの中核となるため、段階的分散化と事前検討が前提です
- 自社事業に取り入れる際は、コミュニティ資産が鍵となる領域から「部分分散化」で始め、成功指標と撤退基準を合意したうえで進めるのが現実的です